イベントレポート

SFC XD 全教員によるトークセッション レポート

3月26日、六本木のアクシスギャラリーで、『X-DESIGN 未来をプロトタイピングするために』(慶應義塾大学出版会)の出版記念トークセッションと、坂井直樹教授の退任における最終講義を行いました。最終講義では、坂井教授が自らの生い立ちを、時代背景を絡めながらプレゼンテーション形式で語り、入れ墨(タトゥー)Tシャツや日産Be-1、デザインケータイ、盲導犬に代わる杖「NS_cane」、SEIKOの腕時計、ジェイコブス・クリークのワイン「わ」のブランディングなど、幅広い作品を紹介。「SFCに来てからの5年間は、本当にハッピーだった」と同僚の先生方に感謝を述べました。

詳細はアクシスギャラリーのレポートをご覧ください。
慶應義塾大学SFC「x-DESIGN」坂井直樹教授による最終講義レポート

ここでは、主にXDの全教員が登壇したトークセッションの内容をレポートします。

 

加藤文俊先生(以下 加藤) それではまず、SFCに着任した順で、自己紹介をお願いできますか。

岩竹徹先生(以下 岩竹) 僕は音楽の研究を主にやってきました。SFCには創立前から関与していて、創立時の混乱と熱気はすごいものがありました。SFCは大学がテーマパーク化していると揶揄されるなか、発想を転換して「知の遊園地」を目指していました。インターネット環境も含めて、コラボレーションによって新しい知を想像する、新しい大学のかたちをつくろうとしたんです。

加藤 僕は、日常のなかにデザインの契機があるという考えで、さまざまな地域に出かけ、人々の暮らしを観察・記録するフィールドワークを行なっています。券売機の台の傘をひっかけるでっぱりに、「傘置き」と書いたシールが貼ってあることがあります。このデザインは、そのシールを貼られたら終わりなんです。優れたデザインに、優れた完成をもって反応する人がいれば、説明はいりません。これが日常の中のデザインの契機の一つです。

山中俊治先生(以下 山中) 僕も、自分でデザインしたSuicaのタッチパネル部分に、「タッチ1秒」と書いてあるのを見ると、すごく敗北感があります(笑)。

藤田修平先生(以下 藤田) 僕の研究室では、ドキュメンタリープロダクションという内容で研究会をやってきました。これはドキュメンタリーにかぎらず、写真や文章も含めて伝達の方法を探る研究会です。ビデオカメラなどの映像・録音機器を通して、私たちの社会や過去の歴史を探索・考察し、その経験を表現する試みを続けています。もう一つの試みは、これまでの人生で体験・観察したこと、感じたことを、映像や写真、音声を使って再構築することです。

脇田玲先生(以下 脇田) 僕はもともと、SFCの卒業生です。最初は三次元CADに関する研究をしていましたが、そのうち衣服に興味の方向が移り、衣服の新しい作り方やデジタルファブリケーションの研究に進みました。今はマテリアルのコンピューティングとして、計算と素材をうまく融合するにはどうすればいいかを研究しています。最近『Access to Materials』(ビー・エヌ・エヌ新社)いう本を出版しました。Access to Materials (Amazonページヘ)

田中浩也先生(以下 田中) 僕の活動を一言でまとめると「ウェブからファブへ」ということになります。デジタルファブリケーションにまつわる活動をしていて、昨日は、イスラエルの「ファブラボ」にいました。SFCのメディアセンターには今、6台の3Dプリンタがあります。ただ、3Dプリンタを買えば、だれでも新製品開発ができるなんてことはありません。ウェブが産業だけでなく生活も考え方も変えたように、ファブもいずれそうなるはずです。今年は、横浜で世界ファブラボ会議の開催も予定しています。

山中 僕は5年前にSFCに来ました。「エフィラ」という触手のようなものが出たり引っ込んだりするロボットのプロジェクトで、SFCの学生に手伝ってもらったことがきっかけです。人と物との反応というのは、重要なテーマとしてずっともっています。ここの学生は、機械エンジニアではないけれど、テーマを与えると勝手にものをつくっていきます。SFCはたくさんの専門家が集まっているので、その人たちに話を聞きながら、自分なりのものづくりができる環境があるのです。

坂井直樹先生(以下 坂井) 最近手がけた3つのプロダクトについて紹介します。タッチフットボールをやっていた生徒が考案した、筋肉の硬度を測る「kincode」。色のついた陰を投影することができる照明「Shadow++」。グッドデザインばかりではなく、たまにはバッドデザインもいいじゃないか、ということでつくった「髑髏伊万里」。こんな感じの活動をしています。

筧康明先生(以下 筧) 僕もSFCに来て5年目です。今回の本では「リアルのデザイン」について書いています。視線を肌で感じる装置など、実世界に新しい感覚をつくり出そうと試みています。XDのメンバーやSFCの環境にはすごく影響を受けていますね。以前は、暗いところで環境を整えないと機能しないデバイスをつくっていましたが、今は屋外でも見られて、コンピュータを操作しなくてもいいような、その場所にあるものを全部使う作品にシフトしつつあります。

水野大二郎先生(以下 水野) 僕は2012年の4月に着任したので、SFCに来て1年ちょっと経ちました。僕の活動は「洋裁2.0」とでも言いましょうか。クリエイティブ・コモンズライツ付きの型紙を販売するというのもひとつの手です。Etsyのような手作り品を売買するプラットフォームで、つくったものを1点から販売することもできます。パーソナルから、2人へ、国へ、世界へと、売り方も作り方もすべてが更新されていくような状況が、ファッションにもきていると思います。

加藤 自己紹介が終わった所で、ここからは本の編者に話をしていただきましょう。田中先生、脇田先生、山中先生、お願いします。

田中 書籍の企画が出たのは、2年ほど前のことです。僕がかなり強くやりたいといった記憶があります。XD(エクスデザイン)が5年前から始まったけれど、XDとはなにかということは、言葉で意味づけしてきませんでした。説明するよりは、実践を先行させてきたんです。でも、各研究室でも語れる素材が集まってきたということで、言葉にしてみようと思いました。この本では1章ごとに各先生が別々の実践について語っているのですが、何かしらの共通項が見えるのがXDらしいと思います。

脇田 5年前に初めてXDの展示会をやったのが、ここ、アクシスギャラリーでした。その頃は、展示会をする意味があるのか、そもそも展示物があるのかという話もありましたが、5年経って、我々もある程度社会に対して投げかけるものができてきましたね。

山中 やっぱり、意外とお互いに影響を受けているんですよね。幅の広さと、それゆえに影響を受け合う感じというのは、ある種の理想的なデザインのモチベーションだと思います。僕も、ファブラボの活動を見て「こうつくれるんだったらこうしよう」とデザインへのアイデアをもらったり、加藤先生の研究から組織的にフィールドワークをやることについて学んだり、筧先生から触感のおもしろさを教えてもらったりしています。同じタイプのデザイナーが集まった組織では起こらない化学反応が起きるんです。だからこの本も、一つの思想を語るというより、それぞれのテキストが相互に関連しています。そこを読み取ってもらえるとうれしいですね。

脇田 なんだかカッコいい感じで話が進んでいますが(笑)、簡単にいうとこれは自己満足なんです。坂井先生が退官し、岩竹先生と藤田先生がもう何年もいられないなど、組織には絶えず新陳代謝が起きています。方丈記に「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節がありますが、この流れが維持されているのはXDの特長でもあるんです。でも、その状況をどこかで帰着させないと、消えてなくなってしまう。そういう思いがあって、わざわざこのご時世に、紙のメディアを選んで定着させたわけです。

田中 この本で、皆さんが時間軸のことを語っているのが印象的でした。岩竹先生がかつて「百年後のことを語るなら、百年前のことを知らないと」とおっしゃっていて、その次の日から僕も歴史の本を買い込んで勉強したことがあります。そして、今回岩竹先生の原稿を読んだら、百年前どころか、3万5千年前の話が書いてあって……(笑)。

岩竹 僕はよく即興でものを言ってしまうので、その言葉、自分では覚えていないなあ(笑)。僕の個人的な意見としては、アメリカに10年くらいいて、向こうで生きていこうと思えば生きていけたけど、やっぱり日本で仕事がしたいと思ったんですよね。SFCの先生でもそういうパターンはけっこうある。簡単にいうと、前に進むためには後ろと左右を確認しないといけないんですよね。

加藤 教員同士で何か質問したいことはありますか? 水野 メイカームーブメントやデジタルファブリケーション、ファブラボといったようなキーワードが、何人かの先生の原稿にありました。つい僕らは、デジタルファブリケーションやメイカームーブメントに肯定的な態度をとりがちですが、それにあえて批評をするなら、どのような観点からされますか。言及された先生方にうかがいたいです。

坂井 これまでのものづくりって、電子部品を組み立てたり、プログラミングをするところは自由にできたけど、パッケージ、外側があまり自由にならなかった。それが、3Dプリンタによって、ある程度外側もつくれるようになったんですよね。これは3Dプリンタではないけれど、僕が紹介した照明器具も髑髏伊万里も、つくりたいと思ったらどこに売るかなどは考えずにさっとつくれる。全体的にもののつくり方が自由になってきているのが、メイカームーブメントだと思います。ただ、ミシンが家にあっても、みんな服はつくらないでしょう。お店で買うほうが、よっぽど種類が豊富で安いから。だから、3Dプリンタが普及したからといって、みんながプロダクトをつくり出すかといったらそうでもないと思いますね。

水野 あれ、あんまり手が挙がらないけれど、他にも言及された先生いましたよ!(笑)

山中 はいはい(笑)。3Dプリンタっていうものは、結構前から高級品としては存在していましたよね。でも、こういったツールがローコストになり、社会化していくというのは、全然違う意味を持つと思います。印刷技術は昔からあったけれど、家庭用プリンタが普及しなかったら、やっぱりあれほどまでにミニコミ誌やコミケの同人誌などが盛り上がることはなかったと思うんです。文化的な変化というのは、質が量に変わると、ある程度がらっと反転する瞬間がある。きっと、今回のデジタルファブリケーション、メイカームーブメントの流れも、その瞬間が来るんだろうなと肌で感じています。それはとてもおもしろいと思いますね。

田中 今って、「ファブラボ」とか「3Dプリンタ」とか、単語だけがバズワードとして流通してしまっている現状がありますよね。何年か前に懸念していたのは、SFCがあまりにも情報技術に頼りすぎているということです。自然言語だけではつかまえられない、物質の知みたいなものがあるのに、そこにあまり重点がおかれていなかった。物に触れて、物をよく見るというのは、取り戻すべきことの一つだと思っていました。

メイカームーブメントで、いろいろなものが簡単につくれるようになったことは前提として、僕らはその先をいかなければいけない気がしています。それが研究者や大学の役目なのではないかと。僕の場合は、人間というキーワードにこだわりたいなと思っています。ある種の新しい能力の獲得や、環境との調和などを実現したい。環境が変わった時に、人はそれによって身体をどう進化させていくことができるか、人と人との関係性はどう進化していくのか。僕はそこにある種の可能性を感じています。

加藤 メイカームーブメントで一番大事なのは、僕ら自身が当事者になることだと思います。ユーザーからメーカーになることができるか。ここで参考になるのが、スチュアート・ブランドが創刊した「ホール・アース・カタログ」です。彼らのカタログでは、砂漠で生活するキットなどを紹介し、実際に彼らも使っている。そのレベルで僕らの生活を変えていけるかどうか。大量生産・大量消費の恩恵にあずかっている限り、社会は変わらない。思想が入らないと、ムーブメントで終わってしまう可能性があります。だから、僕らがそこを啓蒙するというか、いかに演出していけるかがポイントになるのではないでしょうか。

田中 藤田さんが専門とされている映像の分野は、パーソナル化の流れが早くから来ていましたよね。

藤田 そうですね、10年前、私がSFCに赴任した頃には、高性能なビデオカメラが普及し、誰もが同じような条件で映像が撮れる時代がやってきていました。要するに、プロとアマチュアの差が消え去ってしまったのです。その状況の中で、何をつくるか。それがドキュメンタリーの研究会の始まりでした。こういう状況になると、ドキュメンタリーを観る側に、アマチュアな人と、マチュアな人が現れます。お金がかかってるかどうかなど、表面的なところしか感じ取れない人と、どういう視点で世界を捉えているのかという作家性におもしろさを感じられる人。そういう違いが出てくるんです。

加藤 すばらしいパス回しでここまできましたね。最後に岩竹先生、どうでしょうか。

岩竹 ここでかしこいことを言わないとカッコわるいみたいで、いやですね(笑)。特に僕から付け加えることはありませんよ。とにかく、自分の本能に従って、おもしろいことをやっていけばいいんじゃないでしょうか。

山中 最後にご報告したいことがあります。実は、4月から東京大学に移籍します。生産技術研究所の教授になり、慶応義塾大学SFCの客員教授も兼任します。私は、このXDで生まれているデザイン活動や仲間たちは、ひとつの理想のデザイン実践形式だと思っています。そして、東京大学から、東京大学にもそういう場所をつくりたいという依頼がありました。僕はSFCがすごく好きだったので迷いもあったのですが、最終的にはこの愛すべきデザインの場を日本全国に広げるため、東京大学にも活動の幅を広げることにしました。幸いなことにさまざまな方にご協力いただいて、SFCの山中デザイン研究室もある程度残すことになっています。

加藤 私達もかなり衝撃だったのですが、衝撃的なことは人生のなかで何度かあるものですよね(笑)。何が起きるかわからない世の中で、例外的なできごとに寛容であるのは、すごく大事なことだと思います。多様性と寛容さ、というのはXDの根底にあるキーワードでもあります。これまでに培われてきた多様性と寛容さが、書籍としてかたちになったと言えるのではないでしょうか。SFCもちょうど今年が20回目の卒業式を迎えました。これをひとつの節目とし、これからもいろいろなかたちで活動していきたいと思っていますので、ぜひ応援よろしくお願いいたします。

- 開催概要(本講演は終了しています。ご来場ありがとうございました)

【日程】 2013年3月26日(日)
【開場時間】 16:00〜21:00
【会場】 六本木アクシスギャラリー 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 4F
【料金】 料金:2,520円

– 講演概要

16:00 開場
16:30~18:00 坂井直樹教授による最終講義
18:15~19:45 出版記念トークイベント
20:00~ 出版記念パーティー

- 講演概要

坂井直樹 (慶應義塾大学大学院政策メディア研究科教授)
山中俊治 (慶應義塾大学大学院政策メディア研究科教授)
岩竹徹  (慶應義塾大学環境情報学部教授)
脇田 玲 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
田中浩也 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
水野大二郎(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)
藤田修平 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)
筧 康明 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)