水野学 山中俊治 対談【後半】

山中俊治×水野学 トークセッション
「フリーランスデザイナーを始めた頃」から

特別招聘教授 水野学 / 環境情報学部教授 山中俊治

2013年2月24日に行われたXD Exhibition 2013中の山中俊治x水野学 トークセッション
『フリーランスデザイナーを始めた頃』より、質疑応答部分を編集して掲載しています。

フリーランスとお金の問題

水野 僕は、新卒で入社した若いスタッフが、あまりにもお金に無頓着なのが気になるんです。だからよく、「君は将来、どんな家に住みたいの?」という質問をします。「場所はそうだな、北海道の稚内とかでもいい?」と聞くと、「いや、できれば都内がいいです」と答える。ここから、たいていこんな会話になります。「どこでも好きなところに住めるとしたら?」「そうですね、恵比寿とか代官山とか」「じゃあ渋谷区あたりだね。どれくらいの広さのリビングに……そもそもリビング要る?」「いや、要りますよ!」「リビングの広さは、2畳とかでいい?」「そんな、12畳はほしいです」「子どもは何人ほしい?」「2人ですね」「家族はみんな一部屋にいればいいよね?」「いやいや……1人1部屋はほしいですよ」……こうなってくると、わかりますよね。そういう生活をするには、だいたい1億5千万くらいお金が必要です(笑)。
 もちろんこれが全部叶うわけではありませんが、僕は恵比寿の3LDKを目標とするなら、そこに向かえばいいと思うんです。でも彼らは、普段そんなこと考えてもいない。「食えるくらいお金があればいいです」という、彼らの「食えるくらい」に、どれだけお金が必要か、わかっていないんですよね。

山中 奇遇ですね。僕も学生に「将来どんな家に住みたいの」と聞くことがあるんです。そこを描くと、どうしたいかが具体的に見えてくるんですよね。「有名になりたい」などの目標は無限に広がっていきますが、「自分が住みたい家」という問題設定は、ある程度スケールが決まっていますから。フリーランスで生計を立てるには、まずどういう生活をしたいかを決めるのがいいと思います。今の仕事のやり方では到底そこにたどり着けないのであれば、仕事の仕方を変えないといけない。

水野 デザイナーは、こういう計算が苦手な人が多いですが、将来どうなりたいかという願望を詳細に描いて、リアリティを持たせていくのが大事だと思います。

やりたい仕事、大きな仕事にたどり着くには

水野 僕はとにかく得意なことをやり続けたら、現在地にいました。依頼された仕事を全部受けて、全力でやっていただけなんです。最初は友人の結婚式のDMでした。それを見た雑貨屋の店長が、DMを頼んでくれて、それを見た工務店のおじさんが「うちのパンフレットをつくってくれ」って言ってくれて、それを見たFrancfrancのスタッフが「うちの年賀状をつくってほしい」と依頼してくれて、それを見た専務がポスターを、さらにそのポスターを見た社長が会社のマークを発注してくれて、それを見たラーメンズの小林賢太郎くんが「おれのもつくってくれ」って連絡をくれて、その頃になると雑誌に載り始めて、それを見た何とかさんが依頼を……、と流れ流れて今ここに(笑)。

山中 わらしべ長者みたいですね(笑)。もちろんデザイナーは、わらしべ長者みたいにただ持っているだけではなく、いい作品をつくっていかなければいけないんですけど。基本的には、今やっている仕事が次の仕事を生むと信じるしかないんですよね。僕は独立したての頃、坂井直樹さんが僕の日産自動車時代の仕事を覚えてくれていて、「カメラをデザインしない?」と声をかけてくれました。その商品が、けっこうヒットして、次の仕事につながっていきました。そういう意味で言うと、DMのスタートよりはずいぶん恵まれていたかもしれません(笑)。

人生でいつかやりたいと思っている仕事

水野 本当のことを言ってしまうと、特にないんですよね。どれだけ健康を維持して、いいものをつくり続けていけるか、それだけです。ただ、あえて言うならば、都市と教育。これはずっと自分のテーマとしてあります。人にとってものすごく重要なのに、デザインの手が入っていない領域ってたくさんあります。そのなかでもまだまだテコ入れができそうという意味で、ワースト1と2が、都市と教育だと思っているんです。

山中 高校生の時に、弟に「兄貴は将来、何になるの?」と聞かれたことがあります。その頃は、ただ東京の大学に入るために受験勉強をしていただけで、何のビジョンもなかったんです。そこで、ふと「いま何をつくるか考えて一番ワクワクするものは何か」と考えて、「サイボーグをつくりたいんだよね」と答えました。それは、仮面ライダーとかそのレベルの想像なのですが、人間とマシンが一体化するというのはすごくワクワクするものだったんです。考えてみると、一歩もそこから離れていない気がします(笑)。そういう根源的な夢や生理的に「やりたい!」と思うことからは、離れないほうがいいんじゃないでしょうか。

若い頃に戻れるとしたら何をしておきたいか

水野 うーん、若い頃には、死んでも戻りたくないですね。それは、うちの母ちゃんの遺言で……ってまだピンピンしてるんですけど(笑)、「あの頃は良かった、という生き方だけはするな」と言われてきたんです。もう小学校からずーっと、今も、言われています。だから、過去に戻りたいと思ったことはないですね。その頃の自分に何をアドバイスするか、という質問であれば「そのままでいいよ」と言います。つらくて泣いたり、悔しくて電柱にパンチしたり、そんなこともたくさんありましたが、それはそれでいいと思います。

山中 じゃあ、今の若者に何が足りてないと思いますか、という質問だったら?

水野 それはもう、「今の若い子、本、読まなすぎでしょ」と言いたい! スタッフに「本読まないでしょ」って言うと「いや読みますよ、5冊くらい」と答えるので、「それって1週間で?」と聞いたら、「今までの人生で、です」って返ってきて……。もうね、「ごめんごめん、うん、それは読んでるね」ってむしろ優しくなっちゃいましたよ(笑)。デザイナーの本読まないっぷりって、すごいと思います。それは僕の周りでもそう。本は読んだほうがいいですよ。別にデザイン関係の本じゃなくても、小説に経済学、人類学の本、なんでもいいんです。もう、ぜひ本は読んでください。

山中 僕の周りを見ていると、本を読んでいるからといって、それが仕事の役に立つとは限らないんだな、と思うこともありますよ(笑)。でも、いまのお話聞いて、本当に水野さんは同じこと考えてるな、と思いました。僕の妻と。

水野 奥さんですか(笑)。

山中 僕は、妻に言われたんですよ。「昔を振り返るのはやめよう」って。「ノスタルジーという感情は自分の中で膨らむから、嫉妬とノスタルジーを育てるのはやめようね」と。

水野 すげーかっこいい! 奥さん、漢(おとこ)ですね。

山中 でもあえて昔を振り返るなら、僕は大事な時に案外「ぽん」と決断していて、それがよかったんじゃないかと思います。大学2年で、この先何をしていいかわからなくなった時に、落書きで書いたマンガがおもしろかったから、「これをやろう!」って学校に休学届を出した。また、日産自動車の部長さんに話を聞いた時に、「雇ってください!」ってその場で言った。両方悩んでた時期は長かったけど、決断は瞬間的に、あくまで軽くやっている。決断の軽やかさって、大事なんじゃないかと思います。だから、僕も若い頃の自分に言えることがあるとしたら、「それでいいんだよ」と背中を押すくらいですね。