XD教員インタビュー

コンピュータで世界を捉える

環境情報学部准教授 脇田玲

素材自体をプログラミングするということ

ここ数年はプログラミング可能な素材の研究をしていました。素材をデバッグする、アンドゥする、とはどういうことか考えながら、入力によって色が変わる布、かたちやパターンが変わるゲルなどを開発してきたんです。制御はある程度できるのですが、変化の際になにが起こっているのか力学的に完全に把握することはできない。ここからどうするか、というのがいまの僕の悩みです。

思えば、研究をはじめてから悩みはつきません。でも、何をやりたいのか考え続けるなかから、新しいテーマや手法が生まれることもあるでしょう。僕は、わかりやすい解決策を提示したいのではなく、この世界を理解するために研究をしているんです。なぜ地震が起こるのか、なぜカレーうどんをおいしく感じるのか、大きなことから小さなことまで、世の中はわからないことだらけです。でも、その後ろには大抵なにかの数式やロジックが隠れている。それを少しでも理解したいと思っています。

Wakita lab
Wakita lab
SMAAD Surface
布でつくれた自由曲面. 3次元CADと連動して変形するデザインマテリアル.
CAADRIA 2011, Best Paper Award.

すべての「流れ」をコンピュータで記述する

素材の研究から、いま関心は「流れ」全体に向かっています。世の中の流れを記述して、抽象化して、フィードバックする。僕が学生の頃と比較すると驚異的に高速化した現在のラップトップコンピュータの力をもってしても、カフェラテを一口飲んだ時の表面の模様の変化を計算するのに、2〜3時間はかかるんです。それだけ、世の中の現象というのは複雑で予測不可能なんですよね。

もともと電子的なコンピュータというのは、流体計算のためにできたものです。ある現象の流れを解析し、理解して、再利用するためにコンピュータがつくられた。コンピュータの父といわれるジョン・フォン・ノイマンは原爆の衝撃波の研究をしていたことで知られていますが、それだけでなく、気象予測など広く世の中の事象を知るために、コンピュータのアーキテクチャを考案したんです。そのような「流れ」を計算する試みの延長に自分の研究があると思っています。

昨年度はサバティカル休暇で充電期間をいただいていたのですが、復帰してはじめの研究はコンピュータに立ち返って、グラフィックスのプログラミングを中心にしようと思っています。今年度からは学生と一緒に流体や曲面をプログラミングし続けることになるでしょう。

デザインからファンドレイジングまで

新しい脇田研究室ではプログラミングスキルを本格的に鍛えます。扱う対象が素材でもグラフィックでも、変態的なまでに細部に気を使って、高速化したり、感覚の気持ちよさをパラメーターに落としこんだりしてほしい。

まずは、これまでのプロダクトやWeb作品などから、モデルケースを見つけて、真似るところからはじまります。そして、制作物を磨きこんで、学会や展示会など一般の人と競いあう場で発表してもらいます。学生のコンテストには応募せず、社会人と勝負することを意識させています。その結果をもって、次の作品につなげ、ファンドレイジングするところまでやってもらう。いま研究室には、研究費を自分で調達している院生がいますよ。プログラミング可能な紙の作品で、国際会議のインタラクティブアート部門で金賞を受賞したんです。

デザインを学べる教育機関のなかで、一番ビジネスマインドをもっているのがSFCだと思います。プロフィット・マージンとクリエイティブのバランス感覚は、脇田研究室で身につくことのひとつです。これは、僕自身がベンチャー企業に勤め、起業したなかで考えてきたことでもありますからね。

Wakita lab
Anabiosis - A Life on Paper
インタラクティブな紙. 指先の接触を検知し紙上の蝶が鮮やかに発色する.
ACE 2011, Interactive Art, Gold Award.
Wakita lab
Blob Motility
形と動きをプログラムできるゲル.
オーストリア・リンツのARS Electornica Centerにて常設展示中 (2011-2012).

知識、技術、思想、文化を体に染み込ませる教育

研究と同様に、教育についても悩み続けているのが正直なところです。板書で知識を教えたところで、いずれ多くを忘れてしまうでしょう。習ったことを忘れても、反射的に手が動くような素地をつくるにはどうすればいいのか。それは教育というより、訓練、修練、入門といった言葉が近いのかもしれません。僕は「師匠弟子モデル」という教え方が好きで、大学4年間に社会に首を突っ込んで世界を広げるよりも、研究室でみっちりと向き合って密度の濃い時間を過ごすほうがいいと考えています。そこで身体に染み付くものが、お金を払って学ぶ対価だと思います。

身につくことは知識、技術だけでなく、思想、文化なども含みます。なにがおもしろいか、なにがかっこいいか、なにが美しいか。同じ話を聞き、同じ本棚の書物を参考にしながら、日々研究室内で醸成される共通意識が、その人の判断基準やセンスとなっていきます。これは、ものごとを探求していく姿勢についてもいえることでしょう。

脇田研究室に在籍した人は、社会に出ても、新しい領域を開拓し続ける精神が育っていると思います。Webやプロダクトをつくりながら、デザインとエンジニアリングをつなげるフロンティアに立つ人材を輩出していきたいですね。

知的に成熟したアラフォー、大歓迎

これから脇田研究室に入ってほしいのは、実はアラフォー世代。この年齢になると、知的に成熟し、若い時に負荷を与えるのとは違う、深みのある研究ができるはずです。僕自身もきっと教えるより、教えられることが多いと期待しています。

大学と社会のあり方は時代によって変わると思うのですが、20歳前後の均一な人材ばかりを入学させ、企業に新卒の人材を提供するという役割は、もう終わっていくのではないでしょうか。社会人が大学で学び直して、知力を蓄えてまた社会に出ていく。このサイクルが当たり前になると、個人と社会の生産性、創造性がもっと上がるのではないかと思います。