XD教員インタビュー

ものづくりを一人ひとりの手に

環境情報学部准教授 田中浩也

一家に一台3次元プリンタという未来

2010年から「パーソナルファブリケーション」という考え方が本格的に議論されるようになりました。パーソナルファブリケーションとは、「工作機械のデスクトップ化」と、「ものづくりの知識のオープンソース化」が組み合わさって、誰もが家庭で、自分自身のものをつくれるような社会のあり方のことです。

そのあり方を象徴する工作機械として、3次元プリンタがあります。CADの3Dデータや3Dスキャナで読み取ったかたちを入力すると、樹脂などで実物が出てくる装置です。3Dプリンタはもともと「デザイナー」が「試作品」をつくるために使う高価な機械でした。それがデスクトップ化されることで、「一般市民」が「実用品」をつくるための身近な機械へと、大きく変わってきています。

こうやって、技術が社会と接することで、利用者や主体が大きく変わり、新しい文脈や意味が与えられる時期が、ある周期で必ずやってくるんですね。一番分かりやすい例は、コンピュータでしょう。過去50年の間に、大型計算機がラップトップにまでなり、一人ひとりが手にするようになったように、これからは、工作機械が段階を経て民主化されてくると思います。誰もが「つくること」を楽しめる世の中が来るのではないかという展望の、世界的な流れをつくってきたのが「FabLab(ファブラボ)」です。

Tanaka lab
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レーザーカッターでつくれるデザインツールの研究(訪問研究員:渡辺ゆうか)
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ファブラボ鎌倉でも制作活動をする学生

ファブラボで世界中に研究室ができた

ファブラボは3次元プリンタやカッティングマシンなどの工作機械を備えた、誰もが使えるオープンな市民工房とその世界的なネットワークです。いまでは世界30ヶ国以上70ヶ所以上にあります。僕は2010年に、ファブラボを日本につくる活動を始めました。いま日本には鎌倉と筑波の2か所にファブラボがあります。いずれは、図書館のように、ひとつの街にひとつのファブラボをつくりたい。それは100年かけても実現したい構想です。

もともと僕は、建築の設計支援(CADやアルゴリズミックデザイン)の研究者で、「設計とは本質的にどういうことか」というテーマをライフワークとして考え続けています。ただ思索しているだけではなく、具体的に設計を支援する道具やシステム、機械、場をつくるなど、「新しいつくりかた」を提案してきたんです。

ただ、21世紀に入って、既存の「つくりかた」が機能しなくなってきたと感じていました。そんなとき、世界中のファブラボ代表者が集まる会議を初めて訪れ、まったく新しいつくりかたが生まれていることに衝撃を受けたんです。それと同時に、自分のような「ソーシャルな感性を持つエンジニア」がたくさんいて、連携しながら世界的なプロジェクトとして展開していることに感銘を受けました。やっと自分自身の本当の居場所と、本当に果たすべき使命が見つかった気がしたんです。

国内のみならず、世界的なネットワークに加わることは、とても豊かなことです。私にとっても学生にとっても、世界70ヶ所に研究室が広がったような感覚があります。海外のファブラボに滞在することも多く、日本のファブラボにもよく海外のメンバーが来ます。海外のファブラボとスカイプを使った遠隔ワークショップを行うこともあります。離れていてもつながっている「ネットワーク化された工房」がファブラボの本質だと思います。

研究室でつくっているものは「なんでも」

研究室では、未来のファブラボや、これからのパーソナルファブリケーションの可能性を広げるためのツール、マシン、マテリアルの研究を行っています。たとえば3次元プリンタの素材をリサイクルする研究や、新方式の工作機械の開発、間伐材を再利用した木の循環システムをつくる研究などです。

学生にはまず、パーソナルファブリケーションの実践として、自分のつくりたいものを自分でつくりきる、という課題を与えます。研究室メンバーにそっくりの「しゃべるぬいぐるみ」をつくった学生もいれば、食品の3次元プリンティングに凝って「チョコレートプリンター」を開発している学生もいます。皆には、まず自由に「ものづくりの未来」を想い描いてもらいたいんです。個人的でニッチな願望から新しい発想が出てくると思っているので、研究室に入って最初の半年間は、「とにかく好きなものをつくってください」としています。その期間に、すべての工作機械の使い方を覚えてもらいます。研究テーマに取り組んでいくのは、そのあとです。

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ファブラボ鎌倉には海外からもたくさんのクリエイターが訪れる
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新方式の3次元プリンタの開発と実験(デザインマシンプロジェクト)

新しいコミュニティー、職能、働き方づくり

ものづくりを実践するなかで、つくる楽しさやアイデアをかたちにする喜びを感じると、今度はこの経験をもっとみんなに広めていきたい、と考え始めます。「パーソナルファブリケーションを可能とする社会を育てる」という視点が芽生えてくれば、そこが本格的な研究の始まりです。

そうした視座を、僕は「ソーシャルファブリケーション」と呼んでいます。院生になると、社会全体としてものづくりを広め、深めていくためには、どんなデバイス、インターフェース、システム、環境、ビジネスモデルがあったらいいかという議論を重ねていきます。

ファブラボを始めてからは、卒業後もパートナーとして一緒に活動を続けるような流れができているんですよね。今度、渋谷にできるFabCafe(ファブカフェ)は、研究室の卒業生が中心になって立ち上げているんです。これからは、「どこに就職するか」という一過的な選択に縛られず、大きなビジョンを共有して、持続的な活動の軸にできるようなコミュニティーをつくりたいと考えています。さらには、既存の業種にとらわれない、新しい職能のかたちや働き方を、ファブラボを起点に生み出していければと思っています。

「パーソナルコンピューター」「インターネット」以来、久しぶりにやってきた大きな流れがパーソナルファブリケーションです。前2つを先導してきたSFCから、今回も、おもしろく楽しく、わくわくするような流れをつくっていきたいと思います。