XD教員インタビュー

空間と情報のダイナミズムを求めて

環境情報学部教授 中西泰人

デザインよりもプログラミングが本業

僕はXDのなかでも、デザインよりIT側の人間かもしれません。SFCのプログラムでいうとCI(サイバーインフォマティクス)に近い研究をしています。いま力を入れているのはCityCompilerという空間的な情報システムの設計開発を支援するシステムの研究です。例えば、街なかに映像インスタレーションやデジタルサイネージなどをつくろうとすると、人が常にいるので本番前に試してみることができません。それで、一発勝負で現地に行くと、うまく動かなかったり、思うように見えなかったりしてがっかりする。僕自身も映像インスタレーションをいくつかつくってきたので、その残念な気持ちはよくわかります。

それならば、コンピュータ上で試してから本番を迎えられるようにできないかと、シミュレーターシステムをつくりました。例えば、品川駅の港南口。ここにズラッと並んでいるデジタルサイネージを3Dで空間ごと再現して、映像がどう流れると見ている人にとって気持ちがいいのか調べられるようにしたんです。見る側の視点を動かすこともできるので、歩く速さによる違いや立ち止まった時の見え方も確認できます。キャラクターが歩く映像を流したときは、そのキャラクターと自分の歩く速度が一致する時が、一番自然に見えるということがわかりました。このように、時間と空間スケールをテーマにしたシステムのデザインを行なっています。

学生が取り組んでいる研究はさまざまで、今年の卒業制作では、少しずつ「誇張」を繰り返すことでかわいいイラストが描ける「お絵かきシステム」をつくった人もいますし、位置情報検索の速度を上げるための仕組みをPerlで組み上げて検証した人もいます。これまでには、夜景でつくった星座を共有するスマートフォン用のSNSや、カメラ付き携帯電話を利用した物品貸し借り支援サービスを開発した人もいました。

Nakanishi lab
Nakanishi lab
MOTIROIR
Nakanishi lab
CityCompilerを用いたデジタルサイネージのシミュレーション
Nakanishi lab
DAWN(平野啓一郎, 森野和馬, ケンイシイと共同制作
東京都現代美術館「サイバーアーツジャパン─アルスエレクトロニカの30年」にて展示)

ダイナミズムを求めメディアアートからカポエイラまで

中西研究室はメディアアートに強い研究室だと思われていることもあるんですが、それは僕がICC(NTTインターコミュニケーション・センター)などでメディアアート作品を発表しているからでしょう。小説家の平野啓一郎さんと共同で制作した、文字にまつわる作品を美術館の企画展で展示したこともあります。研究外の活動としてはほかに、アイデアを出すために外で会議をする「アイデアキャンプ」があります。ITは使わず、紙やペンなどアナログな道具を用いる発想術で、『アイデアキャンプ』という本も出版しています。提唱者としてさまざまな場所に出かけ、集まった方々とアイデアキャンプを実施するんです。先日は中学校を改修したアート施設「3331 Arts Chiyoda」で開催しました。

すべて本気で取り組んでいますが、研究活動というより部活のようなイメージです。ウェブサイトでも研究紹介は「Research」、メディアアートなどのコンテンツ紹介は「Works」とページを分けています。空間情報デザインはもちろん、メディアアートやアイデアキャンプも、「ダイナミックな場」をつくることに関心があるんですよね。僕はサッカーが好きなのですが、その試合に近いものがあると思っています。動的な場が生まれるならば、デジタルでもアナログでも、頭を使うのでも体を使うのでもかまいません。3年ほど前に始めた、ブラジルの格闘技のカポエイラもそうです。格闘技でありながら相手に当てることはなく、タイミングを合わせながら攻撃と防御を繰り返します。その1瞬1瞬にダイナミズムが生まれるのがおもしろい。こんな感じでいろいろなことに取り組んでいるので、とらえどころがないと思われることもあるようです。

1万時間練習すれば身につけられないものはない

僕は、アート作品をつくることもアイデアを出すことも、最初から得意だったわけではありません。プログラミングですら、本気で学び始めたのはマスターからです。学部生の時はほとんど理解できず、友達に聞きながらかろうじてテストをパスしていました。だからこそ実感しているのは、基本的なスキルは才能ではなく練習で身につくということです。「シンキングプロセスデザイン」というアイデアの出し方についての授業を担当していて、そこではよく「1万時間ルール」の話をします。どんなことでも1日10時間、3年間やりつづければものになるんです。

研究室の学生にもある程度の「運動量」は求めます。ディフェンダーだけど点もとる、サッカーの長友選手みたいなイメージです。基本的に中西研究室では、卒業論文も修士論文もひとりで書いてもらいます。個人技を身につけてほしいからです。プログラミングも研究室に入る前に僕の授業をとって勉強してこないと、ついていけないと思います。アイデアを出すところから、かたちにするところまで、ひとりでできる人を理想としているんです。練習としては厳しいかもしれませんが、力がつくと思いますよ。