XD教員インタビュー

人の暮らしに飽くなき興味を

環境情報学部教授 加藤文俊

まちを歩き、人と距離を縮めるための方法をさぐる

僕の研究室は、まちに出かけて人々の暮らしを観察・記録する、フィールドワークを主体に活動しています。人の暮らしというのはおもしろく、普通に生活しているなかにそれぞれの工夫があります。それは、物の立てかけ方、スケジュールの組み方ひとつにも表れるものです。そうした生きていく上での工夫に、広い意味での「デザイン」が隠れているのだと思っています。

2003年にスタートした「場のチカラプロジェクト」では、学生と一緒に泊まりがけで日本各地に出向き、活気が生まれる場所とはどういうところなのかを考察する「キャンプ」を実施してきました。昼間は、地元の方に取材したり、まちを歩いて調査したりして、その土地の理解を試みます。そして、撮影した写真や聞きとった言葉から、その日の夜にポスターなどをつくります。すべて地元の風景や人々をとりあげたものです。1泊2日という短い時間のなかで、地域の方々とできるだけ距離を縮める方法を発見するのも、このプロジェクトの目的です。

でき上がったポスターは、地元の会場を借りて貼り出します。それを眺めながら、製作者とポスターに登場する人が話すのです。面と向かうのではなく、ポスターを介することで、コミュニケーションがスムーズになり、ときには新しい関係性が生まれたりする。そういった対話の方法も含め、僕たちはコミュニケーションをデザインしているともいえます。

Kato lab
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インタビューの成果をポスターにまとめ、滞在先でポスター 展を開催する。(上山, 2011)
http://vanotica.net/kamip1/
http://vanotica.net/kamip1/
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改装中の商店を活用して、ビデオの上映会を開く。(佐原, 2008)
http://vanotica.net/sawap1/

「大学」という仕組みをまちにかぶせる試み

中長期的なプロジェクトとしては、2010年から2011年にかけて運営した「墨東大学」があります。これは、墨田区の墨東エリアに仮想の「大学」という仕組みをかぶせることで、人びとが集い、語らう、学びの場をデザインするという試みでした。いつでも誰でも入学でき、受講生はカリキュラムという仕組みによって、その地域に何度も足をはこぶことになります。大学のイニシャルをとって「B」というロゴをつくりグッズを製作すると、素朴ながらも大学としての一体感が生まれるんですよね。年度の修了近くに、参加者のひとりが、ロゴを模したクッキーを焼いてきてくれたときは感動しました。

講義内容も本当にさまざまで、ぼろぼろのアパートを掃除する授業や、空き店舗でペンキ塗りをする授業、昼寝をする授業なんていうのもありました。おもしろかったのは、薬屋の店主に、カウンター奥の狭いスペースで使うための椅子を製作するという授業。その店主の身体のサイズをくまなく測るところから始めて、最終的に世界でたった一つの椅子ができました。そして、壊れたときは製作者に連絡がいくという、新たなつながりも生まれました。

こうして地元の人を巻き込みながら、まちについて知り、考える仕組みをつくり上げていったんです。今度はこの仕組みを三宅島にもっていって、島全体を大学にする「三宅島大学」の試みがスタートしたところです。

まちはゆっくり変わる。見届けられなくてもそれでいい

「墨東大学」のプロジェクトが地域活性につながったのか、といわれると、それはわかりません。きっかけはできたかもしれませんが、やっぱりまちが変わるのには、長い年月がかかるものです。僕は、その変化を最後まで見届けられないことを覚悟しています。それでも、取り組みを紙に残して、伝えていくことはできる。そうしたら、何十年後かにそれが役に立つかもしれない、という小さな期待を抱いています。

「考現学」で知られる民俗学研究者の今和次郎が、1926年に実施した「ぐるり調べ」というものがあります。早稲田、慶應、帝大という三大学の半径500m内をくまなく歩いて調べ、結果を地図に描いたものです。僕たちは、そのスピリットを継承し、同じ場所で2010年の「ぐるり調べ」を試みました。これを記録に残しておいたら、また80年後に同じことをやって、まちの変化を調べてくれる人が現れるかもしれません。それくらいの時間感覚なんです。

徹底的な観察は、おのずと提案につながっていく

今和次郎は、服装や民家など、人々の暮らしを異常なまでの興味と執着心を持って観察・記録した人です。彼の功績を見て感じるのは、徹底的に観察をしていると、やはりそれは提案に結びつかざるを得ないということ。例えば、今和次郎が1961年に描いた、食卓のある台所の図があります。いまでこそ、ダイニングキッチンは珍しくありませんが、昔の炊事場は通常土間になっていて、食事をする場所と明確に隔てられていました。でも、たくさんの民家を観察するうちに、炊事場に食卓を置くだけで、効率性が上がり、家族の交流が生まれることに、彼は気づいてしまったんでしょう。これは立派なデザインです。

これをやると儲かります、まちに人がたくさん来ますという、わかりやすい提案は僕らにはできませんが、観察の果てに提案は自ずと生まれてくるんです。そして、まちや地域のことは、外から働きかけても変わらなくて、やっぱりその地域の人がやらないとダメなんですよね。だから、学生には、現場に飛び込み、いろいろな人をつないでいく行動力と、人と距離を縮め、深く関わっていける人間力を身につけてほしい。それはきっと、卒業後どんな道に進んでも活かせる強みになると思います。

Kato lab
フィールドワークの成果はリトルプレスをはじめ、さまざまな形で 展示・公開する。
(フィールドワーク展, 2005~)
http://vanotica.net/exhibition.html