XD教員インタビュー

世界と向き合う研究者を育成する

環境情報学部准教授 筧康明

コンピュータはあくまで触媒

僕達が普段コンピュータを使って情報にアクセスするときは、間にマウスやキーボードが介在していますよね。これらはコンピュータを使いやすくするために開発されたものです。筧研究室では、人とコンピュータを結ぶというよりも、自分の体や、まわりの環境と新しい関係性を築くために、コンピュータという「フィルター」を通すイメージで、インターフェイスの研究をしています。例えば、学生と開発した、雨粒が落ちるたびにその部分に映像が出るデバイスがあります。これは、映像を見るのが目的というより、雨について新しい発見をすることに重きを置いてつくりました。

というのも、僕は昔から、コンピュータの世界があまり好きになれず、むしろずっと実世界の方に興味がありました。本格的に使い始めたのも20歳くらいからで、研究者としては遅い方です。僕にとってコンピュータは、触媒としてなにかを増幅させる存在で、知りたい・創りたいのは実世界での感覚や関係性なんですね。

触感をコピー&ペーストする

いま力を入れている研究の一つが、触感の研究です。実は、触覚がなくなると、人は立ち上がることも、息をすることもできないんですよ。毎日、触感を通した膨大な量のインプット・アウトプットをしているのですが、意識的にそれを扱うことができていない。視覚、聴覚、味覚、嗅覚にくらべて、それを利用したコンテンツやメディアもほとんどありません。そこで、触感をつくるというのはどういうことなのか、ということから触感表現を考えるトータルな活動をしています。

まず、試みているのが、触感の「コピー&ペースト」。そのためのごく簡単なデバイスを開発し、いろいろな大学に持ち込んで、アウトプットのサンプルを集めているところです。活動全体は「TECHTILE(テクタイル)」という名称をつけて、アートセンターやデザイナーと協業しながら広く展開しています。技術自体にも興味がありますが、開発して終わりではなく、Webやワークショップからのフィードバックをうまく吸い上げる仕組みも含めて、新しい研究の進め方を設計しようと模索しています。

Kakehi lab
Kakehi lab
NeonDough
山岡 潤一、筧 康明 導電性を有する粘土を、くっつけたり
伸ばしたりすることにより、粘土内部に灯るあかりが変化する。
形と色を同時にデザインしながら創る粘土細工。
Kakehi lab
ペタンコ麺棒
中垣 拳、今野 恵菜、田代 俊太郎、池澤 彩野花、木村 優作、仁義 勝、筧 康明
麺棒型のデバイスを映像の上に重ねて転がすことで、バーチャルにモノをつぶす
感覚(摩擦と形状の変化)を味わえる。Kinectカメラで撮影すれば、
実世界のどんなものでもつぶすことができる。
第19回国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)総合優勝作品。

カフェで触感を楽しむ未来

触感はまだ開拓されていない部分が多く、研究対象として非常におもしろいんですよ。触覚のみを取り出して考えると難しいですが、今は視聴覚を含めていろんなアプローチから触感づくりに取り組んでいます。例えば、前に発表した研究では、カラの紙コップを持っている人に、ボールが入っている紙コップを振った時の振動を伝えると、まるでボールが入っているような感じがするデバイスをつくりました。これは、カラの方の人もコップを振る動作をすると、よりリアルにボールが入っている感じを味わえるんです。触感というのは、身体とイメージの関係が強く、シチュエーションを想像したり、何かが連動して見えたり聞こえたりすると急に「触っている感じ」がリアルになります。いろいろなところに触感をいじるための変数(パラメーター)が存在していて、意識的にやればまったく新しいメディアをつくれる余地があるんです。

触感を中心に据えた生活の設計を考えると、たくさんのプロダクトやツールを発想するきっかけにもなります。例えば、CDを聞いたり、コンサートに行ったりするみたいに、新しい触感メディアを買ってきて家で味わったり、「触感カフェ」みたいな場所で、みんなで試したりするようになるかもしれない。そういう未来がきたら、おもしろいと思いませんか。

トライアスロン選手を育てるように

筧研究室に入った学生は、はじめから1人前の研究者として扱うと決めています。準備期間はなしで、いきなり研究に入ってもらうんです。いきなりとはいえ、放任するのではなく、研究テーマをブレストするところから二人三脚で立ち上げていく感じです。研究はトライアスロンみたいなもので、アイデアを着想するところから、設計、実装、最終的に言語化して論じるところまですべてを求められるタフな仕事です。そのすべての過程がプロとして身につくように教えていきたいと考えています。

授業は、週2回、毎週6〜8時間、各自の発表に対して全員でディスカッションする形式です。毎週プレゼンがあるため大変ですが、議論の過程を通して力がつくので、続けています。また、研究室で研究するだけでなく、学会、展示となにかのかたちで、研究結果を発表させています。一回外にぶつけてみて、戻してまた考える。この経験を学生時代に何回繰り返せるかが成長の鍵だからです。論文も、書き方から提出の仕方まで丁寧に教えます。

メディアアートで飯は食えるか

僕は学生時代から、メディアアートやデザインを大学で勉強した人が、その分野で生計を立てられるのか、ということをずっと考えていました。これはそのまま、研究室の卒業生の進路にもつながってきます。僕自身、学生時代から会社を立ち上げたりして、何かしらのモデルをつくれないかと模索してきたのですが、最近ようやく、学んだことを活かして仕事をする人が増えてきたと感じています。

あとは、研究者を目指す人も最大に応援したいと考えています。デザインを専門にしていても、他の学部と同じように博士号をとってその先のキャリアを築いていくという展望を持つべきだと思うんです。XDで勉強したことを活かしながら社会とつながる受け皿が、もっと世の中に増える流れをつくりたいですね。

Kakehi lab
onNote
山本 祐介、内山 英昭、筧 康明 紙に印刷された楽譜を用いた音楽演奏インタフェース。
テーブルランプに内蔵されたカメラに楽譜をかざし指でなぞると、その楽譜の
種類・姿勢や指の位置をリアルタイムに認識し、その部分の音響が生成される。
Kakehi lab
living floccus
今野 恵菜、筧 康明
霧の渦輪のピクセルを並べた空中実体ディスプレイ。
ストロボ効果を利用することで、空中で像の位置をコントロールすることができる。